日本では

日本ではご周知のお降り結納という風習が古くから残されていました。今は少しずつこの風習が見られなくなってきてはいますが、一部の家庭では今でも続けられています。歌にも詠われたように花嫁は調度品を携えて嫁ぎますし新郎は資産の一部を新婦の親族に提供します。

その資産の1つに婚約指輪が追加され始めるのは19世紀も後半になってからでした。ウエディングドレスなどによるキリスト教式結婚式は明治の世になってから、知られるようになりましたが元々指輪交換なる習慣がありませんでしたから、庶民の間に普及するのにこれだけの時間がかかってしまったのです。ダイヤモンドはとても高価で一般の人が持つ事は出来ませんでしたから、真珠や誕生石をはめこんだものになります。日本国内でもダイヤモンド付き婚約指輪が一般化していった背景には、同じく少しずつ広まっていったテレビの影響もあります。

高度成長期を迎えていた国内では庶民の生活が豊かになってきた事もあってダイヤモンド付き指輪の人気も少しずつ伸びていきました。“指輪を購入するなら給料の3ヶ月分”という発想はテレビCMからの受け入りです。こうして日本の婚約という概念は少しずつ形を変えながら今日にいたっています。

世界の婚約事情

ヨーロッパ全土を網羅するカトリック教会文化圏では、12世紀初頭に教皇によって婚約指輪の交換が、夫婦としての正式契約とみなされると公示されて以降現代にそのまま受け継がれてきています。

特にイタリアでは結婚を大変尊重しますから婚約期間も自然と長くなるゆえ、婚約指輪にはかなり費用や手間をかけます。一方で北欧での婚約指輪はゴールドやシルバーが一般的ですがプラチナが使われる事はほとんどありません。フランス人は一見華やかそうなのですが指輪に関しては意外と質素で、高価な指輪というよりも贈り物で愛を証する形が一般的です。一方ギリシャや中東、東欧を中心とするギリシャ正教文化圏ではカトリック圏とは違った形での伝統的な結婚の儀が行われています。指輪交換も婚約式でのみ行われています。欧米はとてもカジュアルな婚約パーティが行われ、その中で指輪交換をされる事もあります。結婚式も教会を飛び出して庭で親しい友人知人だけを集めて行われる事も珍しくありません。

一方アジア圏の中でも中国での指輪は漢方医学と結びついて発展してきた影響で婚約指輪というものはありません。しかし近年はヨーロッパ文化が少しずつ広まって来てはいます。アフリカでは結婚の風習は土着のものが民族単位で継承されてはいますが、婚約指輪を交換する風習は元々ありません。

婚約の歴史と指輪史

今回のテーマは“婚約の歴史”です。そもそもなぜ婚約指輪をはめるのか、その由来はどこから来ているのかを探索してみると、古代ローマという気が遠くなるような大昔まで行き着きます。婚約の概念は人類の始まりと同時に誕生したと言っても過言ではありません。さらに指輪の歴史とも重なります。今でこそ気軽におしゃれ感覚でカジュアルリングを誰でも身につけますが。神話の時代には男性が女性と一族に対して運命共同体となる決意を表すのが指輪であり、素材は鉄製でした。

ただし古代エジプトでは愛の証という概念はすでに出来ていて、薬指には不滅の力が宿るという伝承に乗っ取って薬指に鉄リングをはめる習慣がありました。古代エジプトの伝承と古代ローマの風習が混合された形で、指輪概念の基礎が出来ていったのです。長い時を経てキリスト教の世の中になっても、教会での結婚式に婚約指輪が用いられる事はなくむしろ偶像礼拝の対象として敬遠されていたのです。しかし庶民の間では静かに指輪交換の風習が定着しつつありました。12世紀に入り教会もついに指輪の導入を認めざるを得なくなったゆえに、時の教皇により正式に婚約指輪が結婚の義での重要アイテムとする宣言がされました。教皇の権威は当時の社会では絶対的ですからこの宣言は瞬く間にヨーロッパ諸国全土に影響を与える事となりました。

指輪交換を伴う婚約を含む結婚の形式が日本に伝わったのは意外と早くて江戸時代中期にはすでに一部で知られていた事が古文書から明らかにはなっていますが、正式に社会で一般化されるようになったのは明治以降です。結婚業者と指輪メーカーが結託する形で婚約指輪の普及に大いに貢献しました。